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ほかの誰でもない
あなたのためだった
夜遅くまで眠らずに
息をひそめて部屋で座っていたのは
あなたを待っていたんだ
あなたがどこかに行っていても
俺は誰とも会わず待っていた
あなたが来なくたって
また次の夜あなたを待った
住み慣れた場所を引き払い
誰ひとり知らない場所に来たのは
あなたのそばにいるためだった
あなたには他の理由を話したけれど
俺はただあなたの近くにいたかった
あなたが覚悟しきれなくても
俺は平気な顔をした
死にそうになったとき
もう死ぬかもしれないと
病院の天井を見つめているとき
楽になるのも良いかとふと思ったとき
絶対に戻ると決めたのは
あなたとの約束を守るためだ
戯言にみえても一番大事な約束だから
歯を磨き髭を剃る
身体を洗い清潔なシャツを着る
背筋を伸ばして歩き
通る声で話す
きれいに飯を食い
美味そうにコーヒーを飲む
他の誰でもない
あなたのためだった
あなたは誤解しているよ
すべてはあなたのためだった
あなたはいま
俺を捨てて去っていく
あなたには俺のなにも残らない
まるで最初からなかったように
まるで出逢わなかったように
あなたのためだったのに
なにもない
なにもない
今夜も月がすましている
だからなんだ
なにもない
なにもない