森羅

Photo credit: Magdalena Roeseler on Visualhunt.com

 

 

テーブルの上には幾つもの空き缶
床には脱ぎ散らかした服
ベッドの下には読みかけの本
カーテンのない窓から点滅する赤い光
僅かに聞こえる他人の生活の音
僕は部屋の中の最も暗い隅を見つめ
湧き上がる嗚咽の引きつりに身体を揺らした

むせかえる部屋の匂いの中に
あなたも座っていた

 

何かが躍る気配を感じてベランダに出る
見下ろせば木々の葉に月から光の粉
零れ落ちる雫の向こうの暗闇
誰かが灯りとともに足音を響かせた
僕は思い出せない誰かを想う
人気のない通りを一台の車が走り去った

黒い幹に寄りかかり
あなたは立っていた

 

傘に落ちる雨の音
リズムを追おうとしてはかき消される
濡れてしまった靴の中
誰もが足元ばかりを見ている
僕はもう走るのを諦めて
遠くの霞んだビルを見つめていた

僕のまだ濡れていない方の肩に
あなたの肩が触れた

 

砂の混じった乾いた風に吹かれて
目を細めながら川の向こうを見る
青い屋根も白い壁も灰色の道も
全てが赤く染まる時
僕の影は長く伸びて
思いのほか大きな形を地面に描く

冷え始めた空気の中で
あなたは見下ろしていた

 

真夜中が急に終わりを告げる
急に目覚め始める世界のかなたに
浅い呼吸のまま目を凝らす
眩しくて目を閉じると
まだ悪い夢は消えていない
僕は空を見上げたが
黒い空しか見えなかった

冷え切った僕の背中に
あなたがそっと手を置いた

 

僕は歩き
僕は走り
僕は立ち尽くし
僕は立ち去る

月を見上げる

あなたはいる
あなたがいる

僕が生まれ
僕が死ぬとき