Photo credit: h.koppdelaney via Visual hunt / CC BY-ND
底なしの沼に囲まれた小屋
床下からの腐臭に充たされ
屋根からは過去が滴ってくる
僕の暗い棲み家
小さな灯りだけを護る
他に意味はない
ただ護る
僕は気を休めずに
灯りを優しく包む
目をぎらつかせ
何も信じない
それなのに
なのに
最後に触ったのはいつだったか
僕は恐る恐る窓を開けた
僕は憧れてしまった
その美しさに
窓から射す光が
僕の胸を照らす
慈愛に満ちて
それでいて青白い
あなたの傍に行きたい
その光の近くに
だけど僕はまだ休めない
いつかこの灯りが
決して汚されぬ炎になるまで
僕は思わず声をあげる
小さく痛みを伝える
あなただけが
僕を癒し
僕を傷つけられるから
あなたは天上のひと
この湿った空気も
この鼻をつく匂いも
あなたは知らない
あなたの気高さは
僕の呻きを許さない
光は青さを増して
僕の心を暴く
僕の胸をえぐってから
消えた
それが慈愛であったことを
僕は知っている
でも
消えた
愛は愛ではなく
約束は約束ではなく
時は断片に過ぎず
言葉は消えゆく
見上げる先には
濃い灰色の闇
あなたに開けたこの窓に
今は冷たさだけが吹く
これまで何度も見た
あの満月と同じように
この闇を
何度も
何度も
繰り返すことを知っても
何度思い知らされても
僕はいつも待った
涙も
口づけも
美しい微笑みも
現れては消える
何度待っても
必ず消える
すべてがなかったように
あなたは輝くだろう
あなたは
その気高い輝きのために
僕を捨てる
僕は悔いることもできない
耐えられない痛みを
あなたには隠せない
あなたにだけは
僕の涙はいつか乾く
灯りを包む手も変わらない
何ひとつ変わらない
窓を閉めて
息を潜める
少し強くなった腐臭
少し冷たくなった滴
変わらないさ
何も
だけど
僕は前の僕じゃない
前よりも暗い部屋から
僕は夢想する
もしも
あの窓の向こう
暗闇を越えて
小さく呟いたなら
その音は粉雪になって
静かに積もるだろう
あなたの光が
それを輝かせる
あなたが気づかぬままに
僕の信じる言葉を
ほんの束の間
美しく照らす