ひとり


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まだ夜は明けない

吐く息は白く

車のウインドウが凍っている

エンジンをかける

しばらく車内は寒い

ヘッドライトが照らす道の向こうは

わずかに白くなり始めた

今日は太陽が昇るだろうか

 

 

ああ月が見える

君と月のことをどれだけ語っただろう

そういえば便りがあった

前に一緒に見た花の蕾が膨らんだと

あのベンチを思い浮かべれば

寄り添うふたりが見える

 

 

こんなに朝早いのは

新しい仕事を増やしたからだ

単純な肉体労働

君との未来のために選んだんだ

たくさん働こうと

でももう君はいない

僕の世界から消えてしまった

永遠に

 

 

僕の気持ちも

僕の労働も

僕の眠れぬ夜も

僕の病気も

僕の苦しみも

僕の愛も

僕が君を心配する気持ちも

何もかもが君とは無関係になった

君がそう望んだから

 

 

疲れ果てても眠れない

身体も痛むが

でも眠れぬ夜に君を想いたくない

生まれて初めて薬を飲むよ

 

 

愛がなくなるなんてあるの?

それは君の言葉だ

肉の塊になっても愛する

それも君の言葉だ

何の意味もない

僕を責めることはいくらでもできるだろう

でも僕は君だけを想った

嘘はない

 

 

もういい

僕はひとりぼっち

君のいない世界で

身体に鞭打って汗をかく

肌にニトロを貼ってるんだ

生き延びるために

まだ死なない

希望のない世界で

ただ耐える

耐えるんだよ

 

 

君が好きだよ

いまでもとても好きだ

でも死ぬとき僕は

どれくらい

君を恨んでいるんだろうな

美しい思い出も

偽りだったのかもしれない

今ではそう思い始めている

もう思い出さない