呼ぶ

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もうすぐ

仕事がはじまる

それなのに

涙が出る

 

 

 

涙を拭いて

ネクタイを締め直す

咳ばらいをして

鏡を見る

 

 

 

さあ話さなきゃ

笑顔で元気よく

頭を回転させて

顧客満足ってやつだ

 

 

 

仕事が終わる

ネクタイを緩める

涙が出る

止まらなくなる

 

 

 

次の仕事が待ってる

なぜ仕事しているのか

なにも欲しくない

どこにも行かない

 

 

 

仕事が始まる

あなたの顔が浮かぶ

言葉に詰まる

一瞬だけ俯いて表情を変える

 

 

 

仕事が終わる

なんとか凌いだ

だけどもう

無理かもしれない

 

 

 

呆然として

光る画面を見る

いや何も見ていない

あなたの顔が浮かぶ

 

 

 

ああ

あなたに逢いたい

いますぐに

あなたに逢いたい

 

 

 

逢いたいよ

逢いたい

もう一度でも

ああそうすれば

 

 

 

優しかったあなたに

僕は思い切り優しくする

なによりもあなたを

大切に大切に抱きしめる

 

 

 

声を出す

あなたの名前

小さな声で

嗚咽に変わる

 

 

 

背中を丸めて

椅子から落ちる

床に突っ伏して

立ち上がれない

 

 

 

あなたの名を呼ぶだけで

大丈夫だと思えたのに

あなたの名を呼べば

世界がやさしく微笑んだのに

 

 

 

今あなたの背中は

ぴくりともせずに

少しずつ少しずつ

霧の中に消えていく

 

 

 

ああ待って

僕も行く

ああ僕を

連れて行って

 

 

 

気がつけば

床は涙に濡れて

手には力が入らない

僕はもう

 

 

 

僕はもう

だめなんだろう

最後に一度だけ

あなたの名を呼ぶ

 

 

 

部屋の隅で反響して

戻ってきて消えた

あなたの名

愛しい人

 

 

 

ああ

愛しい人