Photo credit: @ S@ndrine on Visualhunt.com
もうすぐ
仕事がはじまる
それなのに
涙が出る
涙を拭いて
ネクタイを締め直す
咳ばらいをして
鏡を見る
さあ話さなきゃ
笑顔で元気よく
頭を回転させて
顧客満足ってやつだ
仕事が終わる
ネクタイを緩める
涙が出る
止まらなくなる
次の仕事が待ってる
なぜ仕事しているのか
なにも欲しくない
どこにも行かない
仕事が始まる
あなたの顔が浮かぶ
言葉に詰まる
一瞬だけ俯いて表情を変える
仕事が終わる
なんとか凌いだ
だけどもう
無理かもしれない
呆然として
光る画面を見る
いや何も見ていない
あなたの顔が浮かぶ
ああ
あなたに逢いたい
いますぐに
あなたに逢いたい
逢いたいよ
逢いたい
もう一度でも
ああそうすれば
優しかったあなたに
僕は思い切り優しくする
なによりもあなたを
大切に大切に抱きしめる
声を出す
あなたの名前
小さな声で
嗚咽に変わる
背中を丸めて
椅子から落ちる
床に突っ伏して
立ち上がれない
あなたの名を呼ぶだけで
大丈夫だと思えたのに
あなたの名を呼べば
世界がやさしく微笑んだのに
今あなたの背中は
ぴくりともせずに
少しずつ少しずつ
霧の中に消えていく
ああ待って
僕も行く
ああ僕を
連れて行って
気がつけば
床は涙に濡れて
手には力が入らない
僕はもう
僕はもう
だめなんだろう
最後に一度だけ
あなたの名を呼ぶ
部屋の隅で反響して
戻ってきて消えた
あなたの名
愛しい人
ああ
愛しい人