Photo credit: Verde River on Visualhunt
ほら僕が前に話した
サボテンとコヨーテの話
少しだけ話すね
灼熱の砂漠で日陰がなくて
食べものもなかなか見つからない
そんな場所で
サボテンは花を咲かせるんだ
その砂漠で
ひとりぼっちのコヨーテが
サボテンのつくる陰に入った
そんな話だよ
思い出したかい
あの物語にはフィンチも出てくる
花をつつき身体にまで穴をあける
憎き厄介ものだよ
でもどうもサボテンは
フィンチを憎んでいるわけでもないようだ
コヨーテはそれが不満で不安だけど
それを言えないでいる
なぜかって
コヨーテはいつも喉が渇いて空腹で
サボテンには何もあげてないから
自分をとても恥じているんだ
そして時に
サボテンもコヨーテを責める
そして自分のつくる陰から
出て行けと言うんだ
コヨーテは言われるがまま
サボテンから離れる
灼ける陽の下に出て
肌は痛く呼吸は荒くなるけど
なんとか小さな岩の下に穴を掘って
潜り込んで姿を隠すんだ
みじめな姿でコヨーテは黙る
言うべき言葉が見つからないんだ
時には大きな獲物を倒して食べる
獰猛な顔も持つコヨーテだけど
サボテンの前ではおとなしい
頭に血がのぼることがあっても
それを顔に出したりはしない
コヨーテはいつだってほんとうは
サボテンを優しく包みたい
棘がささっても守りたいんだ
コヨーテはおそれている
来てほしくないその時を
でもそれを口にはしない
それはサボテンを縛る言葉だから
サボテンの苦しみをわからないわけじゃない
わかっているから自分を恥じてる
でもコヨーテにはどうしても
どうしたらいいのかがわからないんだ
本当には離れられないから
コヨーテは恋をして
それは愛になり
どんなに乾いた土地でも
枯れない花になった
サボテンが陰をつくり
時には水さえもくれたけど
コヨーテはそれが欲しくて
サボテンの傍にいるわけじゃない
サボテンの恋がどうなったのか
愛が生きているのか
今は誰にもわからない
サボテン自身もわからないのかもしれないね
でもコヨーテは離れられないんだ
どうしても
コヨーテは岩の下で丸まって
夢を見ている
サボテンとともに見た朝の光
交わした言葉の一つひとつ
月の光に浮かび上がる美しい顔
天をつかもうとする細い腕
果てしない沈黙と孤独の中で
コヨーテはまだ恋をしている
僕はこの物語の続きを
書けないでいる
ひとりでは書けないんだ
明るい話にしたかった。
ハッピーエンドとまでいかなくても希望が持てるような。
そんな気持ちで以前書いたけど、今読んだらやっぱり苦しい。