記憶の鴉

crow
Photo credit: Anne Worner on VisualHunt.com / CC BY-SA

 

 

僕のカラスたちを夜明けに放った。1羽は東へ向かわせた。もう1羽には好きなところへ行けと命じた。彼は少し迷ってから西へと向かった。

日はとうに暮れたが、まだ戻らない。

僕は粗末な食事を取りながら、からっぽの頭の中でカラスたちを探す。暗闇の中で見つけられない。少し不安になってきたころ、西に行ったカラスが帰ってきた。

「今日は危なかった。報告はない。」

そう言った後、そそくさと籠に戻ったカラスに僕は聞いた。

「あいつはどこに。」

すると、眠そうな声でカラスが言う。

「やつは、まっすぐ東へ向かった後、太陽に焼かれて死んだ。」

僕はほんの少し驚いたが悲しくはなかった。

「そうか。」

そう答えて食事を続ける。

「お前は…何を見てきた。」

少しの期待もなくそう尋ねると

「いつものものだ。報告はない。」

ー それはそうだな。

と僕は思う。

東があるからこそ西に意味があったのだ。

「もう日は昇らないだろう。」

眠りかかったカラスが小さくつぶやく。

たしかにそうだ。もう日は昇らない。少なくとも僕には。

ー それでいい。

僕はかじかんだ手でスプーンを握り、残りわずかな食事を喉に流す。

「もう日は昇らない。」

僕はカラスの言葉を引き取って目を閉じる。

光のない世界で目などなんの意味がある。

 

 

過去でできているものたち。僕にはもう太陽は無用だ。すっかり眠ってしまったこのカラスのように闇と僕は区別がつかない。

「お前の兄弟は死ぬべくして死んだ。」

そう言って僕は眠るカラスにそっと口づける。微かにあの人の匂いがする。カラスは身体をびくっとさせ再び穏やかに眠る。

僕はというと、もう二度と眠ることはできそうにない。

「記憶のカラス。お前が黒くてよかった。」

 

 


何か書かないと過ごせない。