Photo on Visual hunt
湖の青い水の底に
その光はたしかにあった
舟を出すと湖面を渡る風が
頬を撫でて僕の顔を引き締める
岸から一番離れた場所で
僕は沈むはずだった
清らに
ところがどうだ
僕は穴があいて朽ちかかった舟だ
岸から少しも離れられない
干からびた岸の灰色の土に
うずもれて離れられない
風はなく
セイカツという名の靄で
湖面は見えず色はなくなった
僕を翻弄する運命は
嘘を真実だと思い込み
真実を嘘だとなじっている
僕は嘘を目にし過ぎて
嘘に同情までしはじめている
でも問題は今日のパンだ
届く郵便物が貼りついて
身動きができない
淀んで汚れきった空気の中で
思い切り息を吸うこともできない
言葉を奪われ打ち捨てられても
声を出して泣くことは許されない
僕はもう疲れてしまった
誇りを失い漕ぎ出すこともできず
泥の岸辺で小さな石を積むだけ
それでも
月だけは見える
気高く輝いて
あの日と同じだ
泥にまみれていても
月の美しさはわかる
姿は見えないけれど
あなたの声がする
あなたもこの地べたで動けず
身体を冷やしているのだろう
僕の体温をあなたにあげたいけれど
それでも僕は生きる
腐臭にまみれ泥だらけになっても
生きのびるためになんだってする
姿は見えなくても
あなたの声が頼りだ
傍に行ってあなたを抱きしめる
靄を分けてもう一度漕ぎ出す
必ず
必ず